苦恋症候群
ふ、と笑みを浮かべた三木くんが、そのまま歩き出した。

どんどん人混みをかき分けていくその背中を追うけれど、ちょっとずつ離されてしまう。


あわわ、やばい、はぐれちゃう……!

若干私が焦り始めたあたりで、また三木くんが少し先の露店前のスペースで立ち止まってくれた。

ちょっと呆れたような顔をして、追いついて来た私を迎える。



「森下さん、姿勢いいから普段あんまり気づかないけど……実は身長低いから人混みで見事に埋もれますよね」

「う、ごめん……」

「……一応、電話番号交換しておきましょうか」



私の迷子対策で、思いがけず連絡先を交換することになった。

無事赤外線通信が完了したところで、彼がポケットにスマホをしまいながらどこかに視線を向ける。



「ああ、おでん屋はあそこか」



つぶやいて歩き出そうとした三木くんが、だけどすぐに足を止めた。

きょとんと見上げる私を振り向いて、なんだかちょっとだけ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
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