苦恋症候群
「三木くん?」
「……仕方ない、ですね」
ため息混じりにつぶやいたかと思うと、次の瞬間、バッグを持っていない左手を掴まれた。
驚く間もなく、そのまま歩き出した彼につられて足を進める。
「み、みきくん」
「……埋もれられたら、困りますから」
前を向いたままぼそりと答える彼に、かあっと頬が熱くなった。
うわ、やばい。これは、照れる。
さっきは手首を掴まれただけだったから、そんなに意識はしなかったけど……今度はしっかりと、手を“つないで”いる。
やっぱり少しだけひんやりしてる、三木くんの手。
でも私の火照った体温と混じって、それもすぐに気にならなくなった。
まさか会社の後輩男子と、手をつなぐことになるなんて……なにこれ、もしかしてこれが、巷で言う浴衣マジックってやつ?
そんな間抜けなことを考えながら、けれど頭の片隅では葉月さんのことが思い浮かぶ。
『ああいうひとに、大事にされてみたいって……思ったのかも、しれません』
不可抗力とはいえ、今私は彼女の想い人である三木くんと一緒にいて、しかも手をつないでいる。
申し訳なくは思うけれど……かといってこの状況を変えるすべを、今の私は持っていない。
「……三木くんのおばか! 人でなし!」
「え、なんですかそのいきなりの暴言」
ばか、女たらし、無愛想無慈悲男。
さんざん、心の中では彼に対する罵倒の言葉を並べて。
私はやけに熱い頬を右手のひらで押さえながら、彼の後ろを歩いた。
「……仕方ない、ですね」
ため息混じりにつぶやいたかと思うと、次の瞬間、バッグを持っていない左手を掴まれた。
驚く間もなく、そのまま歩き出した彼につられて足を進める。
「み、みきくん」
「……埋もれられたら、困りますから」
前を向いたままぼそりと答える彼に、かあっと頬が熱くなった。
うわ、やばい。これは、照れる。
さっきは手首を掴まれただけだったから、そんなに意識はしなかったけど……今度はしっかりと、手を“つないで”いる。
やっぱり少しだけひんやりしてる、三木くんの手。
でも私の火照った体温と混じって、それもすぐに気にならなくなった。
まさか会社の後輩男子と、手をつなぐことになるなんて……なにこれ、もしかしてこれが、巷で言う浴衣マジックってやつ?
そんな間抜けなことを考えながら、けれど頭の片隅では葉月さんのことが思い浮かぶ。
『ああいうひとに、大事にされてみたいって……思ったのかも、しれません』
不可抗力とはいえ、今私は彼女の想い人である三木くんと一緒にいて、しかも手をつないでいる。
申し訳なくは思うけれど……かといってこの状況を変えるすべを、今の私は持っていない。
「……三木くんのおばか! 人でなし!」
「え、なんですかそのいきなりの暴言」
ばか、女たらし、無愛想無慈悲男。
さんざん、心の中では彼に対する罵倒の言葉を並べて。
私はやけに熱い頬を右手のひらで押さえながら、彼の後ろを歩いた。