苦恋症候群
目の前の背中を見ながら誰にともなく言い訳をして、りんごあめのお店の前で立ち止まった。



「えっと。私、りんごあめのちっちゃいので」

「じゃあ俺は、いちごあめお願いします」



ヒトのこととやかく言っといて、ちゃっかり三木くんも注文してる。まあ、三木くん実は甘いもの好きだもんね。

さっきのおでんのお金は三木くんが払ってくれたから、ここは私がおごることにした。

ありがとうございます、という三木くんにいちごあめを手渡して、私はさっそくりんごあめにかぶせている袋を取る。



「……もう食べるんですか」

「えへへ。歩きながら食べるのがりんごあめの醍醐味でしょ~」

「そういうもんですか」



若干納得していないような顔をしながらもそう言って、三木くんはぽいっと自分のいちごあめをおでんのビニール袋に入れた。……溶けるんじゃないかな。大丈夫かな。

また自然と、手がつながる。



「んふふ。おいしーい」

「よかったですね。落とさないでくださいよ」

「はーい」



私はご機嫌で、ゆっくりりんごあめを味わった。

薄いべっこうあめを舌で溶かせば、少しやわらかくて甘酸っぱいりんごが顔を出す。

しゃく、とひとくちかじって咀嚼していると、前から来た人物とすれ違いざまに肩がぶつかってしまった。

私は慌てて、顔を上げる。



「あっ、すみませ──ッ、」



その相手を、見た瞬間。

嘘みたいに身体が硬直して、私は立ち止まった。



「森下さん?」



くん、と手を引っぱられたからか、同じように三木くんも足を止める。

だけど私は彼に言葉を返すことができず、ただ目の前にいる人物を見上げた。
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