苦恋症候群
「……さとり?」



懐かしい声。懐かしい顔。

指先から力が抜けて、ぽとりと、持っていたりんごあめが落ちた。



「じ、ん……」

「うわ、久しぶりだな。まさかこんなとこで会うなんて」



その人──迅は私を見下ろして、楽しげに笑った。

あごひげに短い茶髪というスタイルは、最後に見たときから変わらない。


……なんで、この人は笑ってられるんだろう。

あんなことが、あったのに。



「浴衣、似合ってんじゃん。髪伸びた?」



言いながら、アップにしている私の髪に迅が触れた。

びくりと反応して、思わず1歩後ずさる。

私のその態度に、迅があからさまに眉をひそめる。だけどそこで、ようやく三木くんの存在に気づいたようだった。



「ああ、なに、新しい彼氏?」

「……ちが、」

「へぇ、イケメンじゃん。こんなのどこでつかまえたんだよ」



軽薄そうに笑いながら、私の返事を待つこともなく迅は三木くんに向き直った。
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