苦恋症候群
そのとき視界に影が落ちたから、私はゆるゆると顔を上げた。

すると目の前には、三木くんの背中。

彼はまるで私をかばうように、迅と私の間に立っていた。



「なに。彼氏、怒ってんの?」



身長は、三木くんより迅の方が少し高い。

迅は嘲笑を浮かべながら、そう言って三木くんを見下ろした。


三木くんは、その挑発に対して何も言わない。

何も、言わないけれど──その鋭い目つきの横顔には、静かな怒りがたしかに見えた。



「おい、なんか言えば──」

「……──あんたと、」



それまで黙っていた彼が、ようやく口を開く。

いつの間にかほどけていたそのこぶしを、ぎゅっと、三木くんが握りしめたのが見えた。



「あんたと森下さんが、どんな付き合いをしてたかなんて知らないし……知りたいとも、思いませんけど」



淡々と話す三木くんを、迅が睨みつけるようにして見ている。

私はただ呆然として、まっすぐに迅と対面する彼を見上げていた。
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