苦恋症候群
「でも。今ひとつだけ、わかりました」

「あ?」



そこでふっと、三木くんが笑った。

冷たくてこわい、綺麗な微笑みだった。



「あんたみたいなクズに、この人はもったいない」

「な……ッ、」



言いきったとたん、三木くんは持っていたおでんのビニール袋を迅の顔めがけて投げつけた。

それから私の手をとり、そのまま引っぱるようにして人混みの中に飛び込む。



「ッてめぇコラ、待てっ!!」



後ろから、迅の怒鳴り声が聞こえた。

だけどそんなのお構いなしに、三木くんはほとんど走るようにしてどんどん先へと進んで行く。



「ッみ、みきくん……ッ」

「ちょっとすみません、がんばってください」



慣れない浴衣と下駄で走りにくいけど、彼に手を引かれながら私は必死で足を動かした。

そうしてしばらく人混みの間を縫うように走ってから、ようやく彼は、露店と露店の間にある少し広くなったスペースで足を止める。
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