苦恋症候群


◆ ◆ ◆


「……あ」



昼休み。いつもの屋上。

なんだかすごく久しぶりな気がするその背中を見て、思わず小さな声が漏れた。

私の声は、彼へと届かなかったらしい。相変わらず、こちらに背を向けたまま手すりに寄りかかっている。

重たい鉄の扉を閉じてから、私は彼のいる場所に向かって足を踏み出した。



「三木くん。お疲れさま」

「お疲れさまです、森下さん」



扉の閉まる音で、すでに私が来たとわかっていたらしい。

三木くんは特に驚いた様子も見せずに、挨拶を返してきた。

対する私は、少しだけ緊張しながら手すりを掴む。それから彼に向かって、微笑んだ。



「花火大会のとき、ありがとね。ほんとに助かった」

「……いえ。もう、足はいいんですか」



ちら、と私の足もとを見ながら訊ねてくる三木くんに、笑顔のまま答えた。



「おかげさまで。今ここで全力疾走だってできるよ」

「しなくていいです」



わざとらしく走るポーズをしてみせると、三木くんはふっと笑いながら即座にツッコむ。


……ああ、よかった。今まで通り、話せてる。

小さく胸の中で安堵して、私は持っていたビニール袋を彼に差し出した。
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