苦恋症候群
「これ、少しだけどお礼。よかったら食べて」

「そんな、気を使わなくても……」

「ただコンビニでまとめて買っただけだもん。ハイ、どーぞ!」



ずい、と袋を掴んだ腕を突き出すと、しぶしぶといった様子で三木くんはそれを受け取った。

今日こそは、と思って買ってきておいたスイーツ、無駄にならなくてよかった。

……まあ、実は先週2回空振って、そのとき持ってきていたものは結局私のおなかにおさまったというのは秘密だ。

直接審査部に行ったり、メールなりなんなり連絡とって、待ち合わせればって感じではあるんだけど……なんとなくそれは憚れて、今日まで来てしまった。


偶然会って、その場の雰囲気でこんなふうに、他愛もない話をする。

……それが、ちょうどいいんだと思う。

本来“会社の先輩と後輩”という関係の私たちには、これくらいがちょうどいいのだ。


目の前の手すりにもたれ、ビニール袋を指さす。



「ささやかだけどそれ、今日の三木くんのおやつセットね。これで午後からの業務もバッチリ」

「……このスイーツで加山主任が黙ってくれるといいんですけどね」

「そ、それは、がんばれ」



なんだか遠い目をする三木くんに、以前偶然目撃してしまった男同士の修羅場を思い出す。

まあ修羅場というか、一方的に加山主任が絡んできてて、それに三木くんがブチギレ寸前って感じだったんだけど。

そっか、あの人、相変わらずなのか。……三木くんに口で勝てるわけないって、悟ってないのかな。残念な人だ。


隣の三木くんは受け取ったビニール袋の中身に視線を落としつつ、「ありがとうございます」とちょっとだけ表情を緩ませながら言った。

おお、その顔はお気に召しましたか。なんだか警戒心の強い動物に餌付けが成功したような気分で、私も「いーえ」と笑う。
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