苦恋症候群
彼は徹底的だった。廊下ですれ違っても、視線ひとつ合わせない。周りに人がいれば例外として、ささやかな挨拶もない。

もちろん、屋上で会うこともなかった。

日と時間を変えて、ちょこちょこ訪れてみてはいるんだけど……それでも顔を合わすことがないとなると、おそらく彼自身が、まったくその場所に来ていないということなのだろう。


思わず書類を持つ手に力がこもって、真っ白なそれにいくつかのシワを作る。

この書類も……私に直接手渡すのが嫌だから、偶然出くわした寺沢課長に託したんだろうな。

ふう、と今度は自分を落ち着かせるように息を吐いて、書類のシワを伸ばした。


……嫌われたもんだなあ、私。

まあ、今までのこと考えると、普通にうざいか。こんな、面倒くさい職場の先輩なんて。


ズキズキと、まるで火傷でもしたみたいに痛む胸には気づかないフリをする。

私は、再び目の前の業務に集中した。
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