苦恋症候群
「そ。だからこの家に泊まるの、女では雪妃が初めてです」

「へへ。そうなんだ」



イタズラっぽく話す俺の言葉に、雪妃はどこかうれしそうに笑う。

カーテン閉めるね、と窓際に近づいた彼女が、だけど不意にその動きを止めた。



「……あ、雪だ」



くもった窓ガラスを指先でなぞり、日が落ちて真っ暗になった外を見ながら雪妃がぽつりとつぶやく。

その言葉に、俺は思わず顔を歪めた。



「げ、マジか。どうりで寒いと思った」

「あはは。遥、寒がりだもんねぇ」



昼間ふたりで買い物していたときは、晴れていたのに。

何かあたたかい飲み物を淹れようと座っていたテーブルの前から立ち上がって、ふとあることに気づく。
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