苦恋症候群
「あ。雪妃、それ使ってくれてるんだ」

「え?」



窓の前に立ったまま、雪妃がくるりとこちらを振り返る。

その首元で光るものを示すように、自分の首を指さした。



「それ、ネックレス。俺が入学祝いで、あげたやつだろ?」

「ああ、これ?」



言いながら彼女は、ひょいっとそのネックレスをつまんでみせた。

雪妃が初めて大学に行く朝、俺がお祝いにと渡したやつだ。シルバーの、小さい雪の結晶のモチーフがついたネックレス。

冬と雪が大好きな彼女だから、きっと気に入ってくれるだろうと、わくわくしながら渡す日を待っていたプレゼント。



「……使うよ。大事だもん」



そう言って、モチーフの部分をいとおしそうに撫でる彼女に、少しだけ照れくさくなる。



「そんな……もう何年も前のだし、安物だし。彼氏とかからもらったもっといいやつ、あるだろ」

「……いいの。これが気に入ってるの」



それに今は、彼氏なんていないもん。

ちょっとだけふてくされたようにつぶやいて、彼女はカーテンを閉めた。

窓の外ではまだ、静かに白い結晶が降り続いている。
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