苦恋症候群
「葉月も、行かなくていいの?」



あたしの右隣に座っているヤマくんが、メニューに目を通しながら何気ない様子でつぶやいた。

言外に、『気になるでしょ?』と言われている気がする。あたしは咀嚼したサーモンを飲み込んでから、巨峰サワーのグラスを傾けて喉を潤した。



「いーの。森下さんと付き合い始めたの、知ってたし」

「……ふぅん」



あたしを含め、同期は7人。男が4人に、女が3人だ。

その中でもヤマくんは、1番大人びているというか、落ちついていて。暴走しがちなこの同期たちの中では、いわゆるストッパー役のようになっていた。

……まあ、みんなもうイイ大人なはずなんだけどね。


そこでばちりと、テーブルの対角線にいる三木さんと目が合った。

あたしは動揺もせずその瞳を見つめたまま、にっこり笑顔を浮かべる。



「よかったね、三木さん。ほんとにおめでとう」

「……ありがとう、葉月」


「なんなのハルカくんっ、なんでミレイには素直なの?!」

「そーだぞ、俺らのことは邪険に扱うくせに!!」

「おまえらが面倒くさいからだろ!!」



珍しく声を荒らげる三木さんにまた笑って、あたしはその騒がしい団体からまた視線を外した。

次に頼む飲み物を選ぶため、ドリンクメニューを手に取る。

隣にいるヤマくんが何か言いたげな眼差しをメガネの奥からこちらに向けているのには、気づかないフリをした。
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