苦恋症候群
下くちびるを噛みしめながら、せめて視線だけは強くまっすぐに彼を見据えていると、またヤマくんが笑う。



「ほんと、葉月は強がりの意地っぱり。初めて会ったときから、変わんないな」 

「な、なによ……」

「──そんなんだから、目が離せない」



ようやく小さく言葉を返したあたしの目の前で、彼がつぶやきながら身体ごとこちらに向き直った。

真冬の澄んだ空気の中、凛とした仕草で目の前に差し出された右手は、まるで映画のワンシーンみたい。


困惑して彼を見つめると、その目はひどくやさしく、あたしを見つめていた。



「おいで、葉月。……なぐさめてあげる」

「……ッ、」



今度こそ、決壊した涙で視界が歪んだ。

頬を流れた雫の跡が、外気に触れてひんやりと冷たい。


目の前で手を差し伸べている人は、7年来の大切な同期だとか。

あたしたちは、恋人同士でもなんでもないとか。

そのときのあたしにはたぶん、そんなことを考える理性よりも、さみしさが勝っていた。



「……ヤマくん……」



ぎゅっと、目を瞑る。また、涙がこぼれ落ちる。

そしてあたしは、その手をとった。
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