苦恋症候群
車内は暖房がきいていて、あたたかい。

仕事が終わってまっすぐ来たのか、ヤマくんはスーツ姿のままだった。



「葉月、メシ食った?」

「あ、ううん、まだ」

「そう。じゃあ、どっか食いに行くか。……でも、その前に」



ハンドルに身体を預けていた彼が、あたしへと向き直る。



「話、あるんだけど」



そのまっすぐな眼差しに、心臓がはねた。

今のヤマくんは、いつもの銀縁のメガネをかけている。あのときの、裸眼の熱っぽい獣みたいな彼は、いない。


でも、どうしようもなく、不安になった。

どうしようもなく、泣きたくなる。



「あのさ、葉月。俺たち、こないだ明らかに”同期“の壁、越えただろ」

「……う、ん」



あたしの目をしっかり見つめたまま淡々と話す彼の言葉に、耳を塞ぎたくなる。


……やだ、やめて。

それ以上、聞きたくない。
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