苦恋症候群
ぶわ、と信じられない勢いで、私の中を昔持っていた淡い恋心が侵食していく。

もう、彼のことしか考えられなくなる。



「……悪いな。こんな話して」



目元を覆っていた手を不意に外し、真柴課長がそう言って小さく笑った。

だけどもう、その微笑みすら、ただの強がりにしか思えなくて。

ただひたすらに、目の前のひとが、いとしい。

私はそっと、薬指に指輪が光る彼の左手に自分の手を重ねた。



「もりし──」

「真柴課長……私は、いなくなりません」



私の言動に、真柴課長が瞠目する。

彼の手を握るその手に、また力を込めて。まっすぐ、その瞳を見つめた。



「私は、いなくならないです……課長」



こちらを見下ろす真柴課長の顔が、切なくゆがむ。

その目に熱い炎が灯る瞬間を、たしかに見た。

まだグラスにアルコールを残したまま、彼に手を引かれてバーを後にする。

自分たちを照らす明るい月から、逃れるように。そのままなし崩しに、私たちはカラダの関係を持った。
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