苦恋症候群
1度は、諦めた恋だった。

でもそれは、他の人と付き合っていた間でも、きっとずっと、心の奥深くでくすぶっていて。

自分自身の異動をきっかけにまた同じ建物で働くことになってから、少しずつ、想いはまた大きくなっていった。


……できるなら。

これからもずっとそばに、いたかった。

でも、だめだったの。

これ以上、自分のワガママに……このやさしいひとを、付き合わせてはいけないと思った。

課長の心の隙間を、少しでも埋めることができたらなんて。そんなの、ただの自己満足でしかない。


自分が、好きで勝手にしてること。

それに巻き込んで自分のすきな人を社会的にも危うい立場に置くなんて、そんなの、許されないと思ったの。


それに気づかせてくれたのは、なんだか掴みどころがない、職場の後輩。

へんてこりんな息抜き仲間のおかげで目が覚めて、私は別れを決意した。

ようやく、この人とちゃんと向きあおうって、勇気を出すことができた。



「こんなこと、言う資格ないかもしれないけど。俺は、森下には、誰よりもしあわせになって欲しいと思ってる」

「え……」

「おまえは、いい女だよ。俺なんかには、もったいなかった」



そう言って私の頬に触れる課長に、また涙がこみ上げてくる。

首を横に振りながら、それでも途切れ途切れにお礼を口にすると、くしゃりと頭を撫でてくれた。


このひとを、すきになれてよかったと。

心から、そう思えた。
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