苦恋症候群
「さて、と……そろそろ、会場の方にいかないとなあ」



自分の左手首につけた腕時計に目を落としながら、真柴課長が言う。

それから私の顔を見て、困ったように苦笑した。



「その顔じゃ、すぐ来れないよな。おまえんとこの部長には適当に言っとくから、後でゆっくり来い」

「あ、ありがとうございます……」



ポケットから取り出したハンカチを目元にあて、ぐすぐすいいながらお礼を口にする。

さすがに、ふたりそろって遅れるのは同僚たちに何か勘ぐられそうでまずいと思ったのだろう。私もそれに同感だったから、素直にうなずいた。



「それじゃ、」

「……はい」



エレベーターの方に、踵を返しかけた課長。

だけど何か思い立ったように足を止め、また私の方へと身体を向けた。
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