苦恋症候群
「ごめんな、森下。俺が弱いせいで、おまえのこと、たくさん苦しめた。……ごめん」



やさしく落ちてくる言葉に、ふるふると私は首を横に振った。

その衝撃で、涙がしずくになって弾ける。



「俺、ずっと森下に甘えっぱなしだった。いい歳して、本当に情けない」

「か、課長は……っ情けなくなんか、ないです……っ」

「はは、ありがとうな」



たどたどしい私の言葉に、課長が顔をくしゃりとさせて笑う。

私がだいすきな、彼の笑顔。


……この、想いは。叶わないまま、消えるはずだったのに。

きっとあの日、いろいろなタイミングが合ってしまったのだ。決して合っては、いけないはずのものが。


まだこのまま課長の体温を感じていたいという劣情を、胸の中に押し込める。

ようやく私はそこで、彼の身体から手を放した。



「ありがとうは、私の方です。……ずっとすきでした、真柴課長。あなたに抱かれて、夢みたいに、うれしかった」

「……森下……」



涙をたたえたまま精一杯笑ってみせる私に、課長の方が切ない表情をする。


ああ、そんな顔を、させたいわけじゃないんだけどな。

あなたには、いつも笑っていて欲しいのに。
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