苦恋症候群
お店の前には、【J's BAR】と書かれた小さな看板。

ここです、とつぶやきながら扉を開けてくれた三木くんに小さく頭を下げつつ、私はその扉を通り抜けた。

あんまり、規模は大きくない店内。だけどセンスのいい内装に、ちょうどいい音量でアップテンポなBGMが流れてる。

なかなか盛況みたいで、カウンターの他に、店の奥の方にあるソファー席にもお客さんが何人か見えた。【白波】よりも、ちょっとだけ若者向けな感じのお店だ。

感じいいところだなって、自然に思う。



「いらっしゃいませー! あれっ、ハルカくん久しぶりじゃんー」



バーカウンターの向こうに立つ30代前半くらいのアゴひげイケメンお兄さんが、こっちを見てそう笑った。

軽く会釈しながら、一瞬『ハルカ?』って頭に疑問符が浮かんだけれど、隣の彼が動いたからそちらに目を向ける。



「ジュンさんこんばんは。年度末でバタバタしてたんですよ」



……ああ、そっか。

三木くんの下の名前って、『遥』っていうんだっけ。

クールな見た目からはちょっと想像しづらい、かわいい名前。でも響きが綺麗だから、ぴったりといえばぴったりかも。


心の中で、ひとり納得する。カウンター近くのふたり掛けのテーブルについた三木くんに倣って、その向かい側に腰を下ろした。

彼に『ジュンさん』と呼ばれていた先ほどのお兄さんが、すぐにおしぼりとコースターをふたつずつ持ってきてくれる。
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