苦恋症候群
「うひゃあああああ!」



そのとき突然外側からドアが開かれ、思わず悲鳴をあげた。同時に、身体を掛け布団で隠す。

ドアを開いた人物が、ノブに手をかけたまま固まっている。


ていうか、え、え、ちょっと……!



「三木くんっ??!!!」

「……るさい……朝っぱらからよくそんな叫べますね」



うんざりしたような表情でそうつぶやくのは、まごうことなき三木くんだ。

さっきまでシャワーを浴びていたのか肩にはタオルをかけていて、いつもワックスで立てている髪が濡れてへたっている。

そこまではいいんだけど、彼はジーンズに上半身裸という、目のやり場に困ってしまう格好をしていた。

やせすぎでもなく、無駄のない筋肉がついたその身体がとても色っぽい。

なんだかものすごく恥ずかしくて、抱きしめていた布団を思わず口もとまで引き上げた。



「え、えと、ここはもしや三木くんの家?」

「そうですけど」



さも当然のように答えて、三木くんはドアを閉める。

そのまま、ガシガシ頭をタオルで拭きながらベッドに近づいてくるから。私は慌てて右手を突き出し、彼を制止した。



「ちょっ、待って! 私今いろいろと状況飲み込めてないから!!」

「はあ? いろいろって」

「え、ええっととりあえず……」



布団をたぐり寄せたままの左手に、きゅっと力を込める。

ごくん、と唾を飲み込んで、おそるおそる彼を見上げた。



「その、……私たち、えっと、昨日……」

「ああ。何もしてないですよ」



真顔であっさり答えた彼に、はーっと思いきり脱力する。

よ、よかった……同じ職場の人とやっちゃったなんて、ほんとシャレにならない。

しかも、真柴支店長と別れた直後て。ありえなさすぎる。
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