苦恋症候群
「ッわ、私、職場の先輩だけど……! 三木くんそういう面倒な感じ嫌なんじゃないの?!」

「森下さんは面倒な勘違いをしなさそうだと総合的に判断しました」

「ううううれしくないー!」



なんなのこのひと! なんなのこのひと!

真柴支店長とのこととか知っといて、よくこんなことできるな!

それとも、知ってるからこそこういうことしてるの?! 私が今完全フリーでしかも失恋の痛手があるから、軽ーくつけこめるって?!


ふつふつとこみ上げてきた怒りに身を任せ、私はキッと目の前の顔を睨む。



「そ、そもそもねぇ! こういうことはちゃんとすき合ってる人同士がするもんなんだから、今のこの状況はそっからすでに間違ってるんだからね!! 三木くん、別に私のことすきじゃないでしょ?!」

「まあ、そうですね。けど俺としては、矢印がどっちにも向いてない関係が1番都合いいので」

「はあああ?! ちょ、都合いいってどういう──」



言葉の途中で、唐突に三木くんがぐっと顔を近づけてきた。

あまりに突然、そしてその近すぎる距離に、思わず息を呑む。

つうっと、三木くんの手が私の首筋をなぞった。



「黙って」



彼がそうつぶやいたのとほぼ同時に、くちびるが重なった。

距離が近すぎて、三木くんの綺麗な顔がぼやけてる。私は驚きのあまり、目を見開いたまま硬直。

だけどすぐ我に返り、ぎゅっと固く目をつぶった。
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