Chocolate Fondue
三栗に名前を呼ばれるのは三度目だった。
初めて名前を呼ばれたのは、ベトナム料理を食べに行った時。
離れた席から、突然呼び掛けられ、メニューについているマークの意味を聞かれたのだ。
その時は、どうして自分に聞くのだろうと不思議だったのを覚えている。
そして、二度目が一ヶ月ほど前。
別の集まりで行った、屋外のビールフェスタで、わいわい盛り上がっていた時だった。
突然、何の前ぶれもなく、三栗が名前を呼んで言ったのだ。
「お誕生日おめでとうございます」
「あ、ありがとう……ございます」
香神はそう言うのが、精一杯だった。
たったそれだけの会話なのに、香神の心臓は高鳴っていた。
お誕生日を覚えていてくれたことがうれしい。
たとえ、自分と10日違いだからだったとしても。
ベトナム料理の時に、話題になって間もないからだったのだとしても。
三栗の呼びかけは、少し改まった感じがする。
だから香神は、いつもかしこまって、「はい」と答えてしまう。