パパは幼なじみ
「嘘の日にち教えたんだね、徹くん…」
「今は、子供だったなって思う…そして3月16日、もちろんありさは来なかった。」


 ───────────────────
 「まだ来ないのかな、ありさ」
  
 キョロキョロ辺りを見渡す明正。最初は大
 きいトラックに興奮していたが、今はあり
 さのことが気になるようだった。
 明正の家の中はどんどん空になっていく。

 大人たちは最後の大きい荷物を運びに、家
 の中に入っていった。

 「なんで来ないんだろ、ありさ。徹、伝え
  てくれたんだよな?」
 「………」
 「徹?」
 「…伝えた。3月17日って…」
 「3月17って…それ明日だろ!?何間違えてん  だよ、徹!俺、ありさの家に…っ!!」
 「間違えてない!!」

 僕の一言に、走り出しそうだった明正は動
 きを止めた。

 「間違えてないって…どういうことだ?」
 「僕、ありさちゃんが好きだ。だから、明   正には会わせない」
 「何言ってるんだよ、徹!ありさに言わな
  きゃいけないことが…」
 「ありさちゃんには言ったよ!僕も明正も
  好きだって。でも明正は遠くに行く。僕
  はずっと一緒にいるって。」

 明正は微動だにせず、僕を見ていた。

 「そしたらありさちゃんは言ったんだよ?
  僕と一緒にいるって…」

 全部、真っ赤な嘘だった。好きだって伝え
 た話も、ありさが僕を選んだ話も。
 次の瞬間、僕は明正に胸ぐらをつかまれて
 いた。

 「俺がありさに好きって言いたかったんだ   。ありさに嫌われても、言いたかったん
  だ。友達だから、徹に教えたんだっ!!」
 「明ま…」
 「名前言うな!!お前なんか…大嫌いだ…」

 殴られると思った。でも明正は、殴らずに
 僕を離した。
 少しして、荷物を積み終わった明正の母親
 が近づいてきた。

 「そろそろ行くよ、明正。徹くんにお別れ
  のあいさつして?」
 
 明正は無言で背を向け、トラックの方へ歩
 いていった。

 「明正ったら照れくさいのかね。ごめん    ね、徹くん。仲良くしてくれて、ありが
  とう。」
 「うん……」

 “元気でね”とか“手紙書くよ”とか、伝
 えてもらえる言葉はあったけど、言わなか
 った。きっとそれは、ありさに言ってほし
 かっただろうと思ったから。
 ───────────────────

 
< 92 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop