まだあなたが好きみたい
なにもホームで別れてもよかったのだ。
あのタイミングなら、必死で走らなければ東はわたしに追いつけなかっただろう。
というか、追いかけてきただろうか。
窪川にもロコツだったと言われた菜々子の態度に、あの東が何も感じ取れなかったとは思えない。
東とわたしは似ている。
わたしだったら。
臆病を、慎重という言葉に都合よく置き換えて、ひとまず成り行きを見守るだろう。
それなのに。
今の不可解なこの状況――。
(あれ?)
窪川に傾きかけた形勢を取り戻すべく、いじわるな気持ちで問いかけておきながら、次の瞬間、逆に菜々子はひるんだ。
悔しげに恥じるだろうという予想とは裏腹に、窪川はきょとんとしていた。
俺、なに言われたの? みたいな。
(な、なに、その邪気のない素朴な顔)
笑えないんだけど。
「そんなのあたりまえだろ」