まだあなたが好きみたい



感じたことのない感触に戦慄が走った。



ほのかに汗とシャンプーの匂いをかぎ分けるや否や、菜々子は満身の力を込めて窪川の手を振りほどくと、その頬に向かい躊躇なく平手を放った。



静まり返る冬の公園に物凄い音が木霊した。





「いってぇぇぇ……なあッ、このやろう! なにしやが」




もう一発、激烈なビンタが、今さっきぶたれたばかりの場所にクリティカルヒットした。




「こ、こんのやろう、よくもやったな! 減るもんじゃないだろうがッ!」



「どういう意味だ!」




菜々子は叫んだ。冗談にも程がある。


そのとき、窪川の右頰に光るものを見て取って、菜々子は怯んだ。だが、そのひきつった感じから、平手打ちを食らって右顔が麻痺してるだけだとわかって、いっそう激高した。




「このクズやろう! 訴えてやる!」


「黙れブス! だいたいなんで俺がお前を貶めるんだよ。あんときはほんとうに誤解だった。知らなかった。目の前しか見えなくなってたんだ。ホッカイロをやったのも、おまえを助けたのも深い意味なんかねぇよ。見返りも求めてねぇし、ましてやおまえを惑わしてなんかの策に嵌めたいとか、そんなんいちいち考えてうごくほど俺は小さくできてねぇ!」



「だったらなんなのよ、今のは」


「え…っ」





見るからに窪川はたじろいだ。





「なんでいきなりあんなことしたのかって聞いてるの。今のは親切の内にどうやったって入らない。説明してよね、このわたしが、納得の、いくように」



< 147 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop