まだあなたが好きみたい
感じたことのない感触に戦慄が走った。
ほのかに汗とシャンプーの匂いをかぎ分けるや否や、菜々子は満身の力を込めて窪川の手を振りほどくと、その頬に向かい躊躇なく平手を放った。
静まり返る冬の公園に物凄い音が木霊した。
「いってぇぇぇ……なあッ、このやろう! なにしやが」
もう一発、激烈なビンタが、今さっきぶたれたばかりの場所にクリティカルヒットした。
「こ、こんのやろう、よくもやったな! 減るもんじゃないだろうがッ!」
「どういう意味だ!」
菜々子は叫んだ。冗談にも程がある。
そのとき、窪川の右頰に光るものを見て取って、菜々子は怯んだ。だが、そのひきつった感じから、平手打ちを食らって右顔が麻痺してるだけだとわかって、いっそう激高した。
「このクズやろう! 訴えてやる!」
「黙れブス! だいたいなんで俺がお前を貶めるんだよ。あんときはほんとうに誤解だった。知らなかった。目の前しか見えなくなってたんだ。ホッカイロをやったのも、おまえを助けたのも深い意味なんかねぇよ。見返りも求めてねぇし、ましてやおまえを惑わしてなんかの策に嵌めたいとか、そんなんいちいち考えてうごくほど俺は小さくできてねぇ!」
「だったらなんなのよ、今のは」
「え…っ」
見るからに窪川はたじろいだ。
「なんでいきなりあんなことしたのかって聞いてるの。今のは親切の内にどうやったって入らない。説明してよね、このわたしが、納得の、いくように」