まだあなたが好きみたい



詰め寄られ、窪川は苦い顔つきで必死に視線を避けようとする。




「それは、だな……」




言いあぐねて、ついに言葉に窮してしまった窪川に、菜々子はぷいっとそっぽを向いた。



「お、おい」


「帰ります」


おろおろする彼を菜々子は一刀両断した。




さっきからなんだ。強気になったり弱気になったり。自分もそうだから、煮え切らないやつを見てると鏡の自分を見てるみたいでなおさら腹が立つ。




「次呼び止めたら今度こそ警察呼ぶから。ごきげんよう」





きびきびと険のある口調でそう言って、菜々子は歩き出した。





(やっぱり意気地なしはあいつだ)




やってられるか。



暫し歩いて、どういうわけか涙がこぼれた。あまりに熱くて喉を刺激する。



鼻をすすってもそれに覆いかぶさる音はない。




ひとりで歩くにはあまりに寂しすぎる冬の夜道。




窪川はついに追いかけては来なかった。




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