まだあなたが好きみたい
「ばらされても、俺は構わないぜ」
「俺がどうこうする話じゃねぇだろ。睦美に警察に行く度胸があるかどうかだ」
もっとも、あの様子なら無理だろう。
心をずたずたに引き裂かれた傷は一日二日でどうにかなる話ではない。
それに、ひとたび警察に行ってしまえば、自分のこれまでの行いもすべて知られることになるのだ。
その羞恥に彼女は耐えられないだろう。
「聞いてもいいか?」
「どこからこの話を手に入れたのかってか?」
匡はいささか面食らった。
「あ、ああ」
「どこからだと思う?」
「あ?」
眼鏡は肩をすくめた。
「おまえがまったくの無傷っていうのもつまらねぇが、今日のところは大目に見てやるよ。――俺は、利十のいとこなんだ」
利十、としばし考える。そうだ、あの支援学級の男の名前だ。
「伝言ゲームだと思ったか? 残念だったな」
要するに又聞きらしい。
「俺の母親しか知らない話だ。その件に関しては親父さえ知らない。当事者とその関係者以外では、本当に俺と母親だけだろう」
眼鏡は手を洗うと、乾いた浴槽に入れていた通学カバンを持ち上げた。
「そいつはそのへんに捨てておいてくれ。失敗作に用はない」
こともなげに言うと、眼鏡は部屋を後にした。
茫然自失の睦美を夜陰に乗じてどうにか誰にも見咎められることなく彼女の実家に送り届けて帰ってくると、時刻はすでに夜の11時を回っていた。