まだあなたが好きみたい
「てか、おまえに言われるまでもなく俺は地獄に堕ちることが決まってんだ。それなのに、これまで誰にもばれずに平和に高校生活が送れて来れたってのは、正直、奇跡だ。でも、人の口に戸は立てられないってのはたぶんこういうことなんだろ。事が事だけに誰も口外できないと思ってたが、それは俺の見込みが甘かった」
「今なら覚悟ができてるって言うのか」
「できてねぇよ。ねぇけどそんなもん、俺みたいなやつにできねぇなんて言う資格ねぇから、できなくても、できるように努力してそんで、腹括るしかねぇじゃんか」
……あの頃は、そんなふうに思うことができなかった。
自分の境遇を嘆いた、すべてを他人のせいにして。
強がって、耳を塞いだ。
反発心で心の隙間を埋めながら、どうにか自分を保ってきた。
でも、今、吉田に惚れて、少しでもあいつに好かれたいと、あいつの心に触れるような男になりたいと、そういう純粋な思いに芽生えてから、匡ははじめて人としてのまっとうな人格に目覚めた気がする。
脅されておろおろしてる自分なんか見ていられない。
ばらされたらもうそのときだと開き直れば、目先の恐怖心よりもずっともっとすがすがしい気持ちが胸いっぱいに広がった。
ふんと、眼鏡が尊大に鼻を鳴らした。
「興醒めだな」
眼鏡はむくりと立ち上がると、汚らわしいものでも見るように自らの制服についた髪の毛の切れ端を落とし始めた。
「俺は反省なんかしないけどな」
眼鏡は匡の肩越しに廊下でうずくまっている睦美を一瞥した。