まだあなたが好きみたい

(この人の目、変なフィルターでもついてるのか?)


菜々子は思わず夏原の双眸を覗き込んだ。

曇りのない瞳が困惑に揺れる。


「な、なにか?」

「いや、美化しすぎじゃないかと思って」

「な、なにを?」

「だから、窪川を」


夏原は力なく笑う。


「よっぽど、窪川のことが気に入らないんですね……」

「いえ」


菜々子は言った。


「へ?」

「わたし、窪川のこと、好きですよ」


有正以外で、はじめて他人に気持ちを打ち明けた瞬間だった。

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