まだあなたが好きみたい
「話してくれないんだね」
「フェアじゃないか? でもごめんな。話したら傷つくやつがいるんだよ」
ふと睦美は黙り込んだ。
どうした? と声をかけると、睦美の肩が小刻みにふるえているのがわかった。
「泣いてるのか?」
「わたし、窪川のこと好きだった」
「俺もだよ」
「でも、それはもう、過去のことなんだね」
復縁を望んでいるのだろうか。
確かに、今の俺は自分でも驚くほどにいいやつを演じている気はする。睦美も、有正に手酷い裏切りにあったばかりで、それを埋めてくれる相手が欲しい気持ちはわかる。
「ああ、そうだな」
だがもう、戻ることはない。
その意思を知り、睦美はひとしきり匡をぎゅっとした後、名残惜しそうに腕を離した。
「傷つく人って、もしかして窪川の好きな人?」
「……ああ」
「黒猫の送り主でしょ?」
匡は目を見張った。
なんでこいつがそれを。
驚く匡をよそに、睦美は自身の通学カバンから携帯を取り出した。その先にぶら下がるマスコットに目を留めて、匡はあっと声を上げた。