まだあなたが好きみたい


はじめての違反。

怯えと狼狽、それを上回る興奮で心拍数が上がり、頬が熱い。


息を整えていると、突然、何かが幾分耳障りのある音と共にわたしの後頭部を直撃した。



「―――った!」



弾かれたように振り返る。


足元に横たわるそれ――ホッカイロだった。


目を上げて、どきりとした。



こちらを向いた窪川の手が、ボールを投げた後のピッチャーのそれのように中空に浮いていた。


窪川は何も言わない。

それどころか表情ひとつ変えることなく、何かを眼差しで語りかけるわけでもなく、敢えて言うならつまらなそうに向きを戻すと、後はこれという素振りを見せることもなくフェンスの穴をくぐっていく。



菜々子は小首を傾げてふたたび視線を足元へ落とした。



とりあえず拾うと、ほのかなあたたかさが冷えた手のひらにいささかもどかしいくらいのやわい熱を与える。


開封したばかりなのだろう。

限界時間が近いにしてはあまり毛羽だっていないし、握っていると熱が増すようだ。



(……でもこれどういう意味)



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