氷の卵
それからというもの、啓は毎日、香織さんは時たま店にやってくるという日々が続いた。
私は、啓と香織さんが行き会ってしまうのではないかと、密かに心配していた。

でも、その心配はほとんどなかった。
なぜなら啓は、早朝にしか来ない。
そして香織さんは、お昼頃に来ると決まっていたからだ。


私はあえて、啓にも香織さんのことは言わなかった。

そしてもちろん、香織さんにも啓のことは言わないと決めた。


私は、二人を裏切っているのかもしれなかった。

だけど、言えなかった―――


何も、知りたくなかったんだ。

啓と香織さんの関係とか、過去とか。

知ってしまったらもう、私は啓を好きでいられない気がしていて。
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