氷の卵
啓とともに過ごす日々は、とてもとても穏やかだった。
本当に、信じられないくらい優しい日々がそこにあった。


啓は毎日、私が教えたとおりに仕事をする。

一つ屋根の下に暮らしているから、家事のようなことも分担することが多い。


朝昼晩、ご飯は私が作る。

掃除はそれぞれだけれど、廊下や階段、店の掃除は啓に任せている。


気が向くと二人で紅茶を飲んで時間をつぶしたりする。


それから、啓は花の名前さえ忘れてしまっていたので、一から覚えてもらっている。


そういえば、あの頃には教えられなかった花束のつくり方や、ドライフラワーのつくり方、そして紅茶の淹れ方も、啓に教える。


でもせわしなくなんてなくて、毎日がゆっくりゆっくり、流れていくのだ。

思えば私がみどりさんと過ごした日々も、これによく似ていた。


啓はそんな日常の中で、だんだん笑顔を取り戻していた。
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