氷の卵
次は一転して悲しい花束だった。

店にやってきたのは高校生の男子。
友人がバイクの事故で、亡くなったという。
お葬式で、友人の両親に渡したいから、という意味で花束を注文してきた。

彼は泣いていた。
親友だったんだと、自分が辛い時、いつもそばにいてくれた、唯一の親友だったと。
そう言いながら、泣き声をかみ殺して泣いていた。

その悔しさを、悲しさを思いながら、花束を作った。


昼過ぎになって、彼はやってきた。
お通夜は夜。
その前に、花束を取りに来たのだ。


「こんな感じでよろしいですか?」

「綺麗……ですね。」


一見何の変哲もないまっしろな花束。

でも、私は一か所こだわったことがあった。

ヤマボウシ、コデマリ、コブシ、ニチニチソウ。

本当は花束にはあまり使うことのない白い花たち。

でも、それらの花言葉はすべて、「友情」。

彼はおそらく気付かないだろう。
でも、それでもよかった。

私が彼の気持ちを代弁するには、そのくらいしかできなかったのだ。


「なんか、これ……、あいつに似てます。」

「え?」

「地味で目立たないけど、こんなに……光ってる……。」


彼は再び、静かに涙をこぼしていた。
伝わったんだと、そう思った。


「ありがとうございます。」


彼はそう言って、深々と頭を下げた。

私もカウンターから出て、同じようにお辞儀をする。
彼は悲しそうな顔で、でもどこか、凛とした表情で店を出て行った。


今日の花束の注文はこれで終了だ。


私は、ハーブティーを淹れた。

気持ちを切り替えたい時に、みどりさんがいつも飲んでいたハーブティーだ。

これを飲むと落ち着いて、翳った心も、浮き立ちすぎた心も、平静に戻れるのだ。


こんなふうに私の毎日は過ぎていく。


これが幸せなんだと、心から思っていた。
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