氷の卵
残った花はいろんな種類が少しずつあった。
特にバラはたくさん色がある。
バラエティーに富んだ、それでいて統一感のある花束にしたいと思った。

いろいろ考えながら作ったら、とても可愛らしい花束になった。
縁には色とりどりのバラをあしらった。


「こんな感じでどうでしょう。」


声をかけると、うつむいていた男性が驚いたように顔を上げた。


「可愛い……」

「お相手のネームプレートはお入れいたしますか?」

「そうですね。あと、メッセージを。」

「では、このカードに書いてください。」


男性はしばらく考えていた。
そして、そっとペンを走らせる。
その様子を、私は何気なくずっと見つめていた。


「できました。」


男性は、子どもが宿題を終わらせた時のような顔で、そう言った。
私は思わず、吹き出しそうになってしまった。


「では、お届けして参ります。店は一応閉めていくので、ではこれで。」

「あの、おいくらですか?」

「残り物の花です。どうせ明日には処分してしまうんです。お金なんて受け取れませんよ。」

「そんなこと言わないでください。」


男性の真剣な表情にはっとした。

そうか。

お金を払わないと、男性の花束じゃなくなっちゃうんだ。


「じゃあ、送料込みで3,000円いただきましょうか。」

「そんなに安いんですか?」

「夜間料金です。」


そう言って、互いに笑い合った。


男性の笑顔はなんだか、胸の奥がうずくような、そんな笑い方だった。
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