氷の卵
「あの、」

「はい。」

「どうやって届けるんですか?」

「え?桜木町はこの近くだから、歩いていきますよ。」

「こんな夜道を、女性が一人で歩いて、何かあったらいけません。僕も一緒に行きます。」

「いえいえ、私は仕事ですから。大丈夫ですよ、お気遣いありがとうございます。」

「いえ、送ります。」


男性はきっぱりと言い切って、花束を抱えた。

私は戸惑いつつ、うなずいた。


この日、もしも出会わなければ、私たちは他人のままだったのかもしれないね。

普通に生きていたのなら、絶対に交わらない人生が、交叉した。

そう、この夜はそんな、不思議な夜だったんだ―――
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