桜の木の下で-約束編ー

6.鬼帰 ~おにがえり~ -咲-




目が覚めたら見知らぬ景色が
広がっていた。


真っ暗で何も見えない場所。



ゆっくりと体を起こして、
上半身だけで、グルリと周囲を見渡す。



徐々に暗闇に慣れてきた目が
視界にいろいろなものを
映し出してくる。


映し出すって言っても、
広がるのは暗闇。



何処かの、あばら家みたいな場所で
眠ってたらしい私。



此処は何処?

見慣れない景色に不安が募っていく。






『目覚めたの。
 アナタ』





誰も居なかったその部屋に
突然、現れたのは着物姿の小さな少女。



その少女は、見る見るうちに大きくなって
私の良く知る姿へと変わっていく。



えっ?


「依子先輩……」




小さく呟いたのと同時に
私の首元に伸びてくる真っ白な二本の手。




両手で絞めつけられる首。


息苦しさから逃れたくて
必死に自分の両手を伸ばして
依子先輩が締め付ける手を
振りほどこうと足掻く。





その時突然、桜吹雪が巻き起こる。



その桜吹雪は、依子先輩を惑わすように
渦を巻いて纏わり【まとわり】つく。





和鬼?







『紅葉、引きなさい』






何処からともなく聞こえる、
その声に導かれるように
少女の姿へとまた変わった
依子先輩だった存在は
桜吹雪を切り裂いて姿を晦【くら】ました。







何?





また闇の世界が広がる。






「和鬼?

 和鬼居るんでしょう?」


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