桜の木の下で-約束編ー





外に飛び出すと
空からは雨が降ってた。








……助けて……






誰か何処か、
私の知らないところに
連れて行って。





何度もそう念じながら、
雨の街を彷徨ってた。




そしたら手が見えたんだ。







『おいでおいで』って真っ白い手が
手招きしてた。










……あぁ……
私、そうだ……。







その手をとったんだ。






その手を取って、意識を失った。






ここまでの道程を思い出して、
一気に血の気が引く。







誰かに手招きされて辿り着いた
この場所……ホント、ここ何処?






負の連鎖に陥れかけてた私が、
闇の中、手探りで掴み取ったのは
小さな花弁。




その花弁が、和鬼の操る桜の花弁だって言うのが
触れる指先越しに伝わって、
少しずつ、私の今の居場所が見えてくる。



脳裏に浮かぶのは、
厳しいことも沢山いうけど、本当は優しいお祖父ちゃん。


そして容赦なく手厳しいことを言うけれど、
本音で付き合ってくれる、親友の司。


強烈なスキンシップは何時までたっても慣れられないけど、
それでも私を大切にしてるって気持ちは、
まっすぐにぶつけてくれる一花先輩。



そして……傍に居てくれるだけで、
心が安らいで、私を満たしてくれる唯一の存在。


和鬼……。

早く帰らなきゃ。



『和鬼は裏切らない』



お呪いの様に、声に出して呟きながら
お守りの勾玉へと手を伸ばす。


その途端、
一気に血の気が引いていく私。


僅かな希望が遠ざかっていく感覚。

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