桜の木の下で-約束編ー


手に握る、突っ張り棒へ力を入れながら。






暫くして私が言い放った通り、
静かに扉だけが開かれた。




扉の向こうの男は膝を折、
頭【こうべ】を下げたまま控える。



「姫さま、どうぞ、その御手のものを
 お鎮め下さいませ」



続いて紡がれる言葉。




「貴方が誰かなんてわからないのに
 警戒をとけと言う方が無理でしょ。

 名前を名乗って。

 何故、私を咲鬼と呼ぶの?」



この場所の手がかりを見つけなきゃ。



その一心で、震えそうになる声を
抑え込んで言葉を紡ぐ。



「申し遅れました。

 私の名は、珠鬼(たまき)。

 かつて、和鬼と共に貴女さまに
 お仕えしたものです」



珠鬼と名乗ったその男は、
和鬼の名を紡いだ。


その名前に敏感に反応する私の高鳴り。




「珠鬼っていったわね。

 貴方、
 和鬼の事を知ってるの?」



和鬼の名に少し警戒を緩めてしまった私は
心持ち柔らかに問いかける。


「知ってるも何も。

 和鬼は我、友」


そう紡がれた言葉に一気に力が抜ける。







……和鬼を知る友なら
   私に害を与えない……。






ならば、今は警戒をといて、
今自分が居る場所の正しい情報を
仕入れるべきだ。 



私自身がそう判断する。



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