桜の木の下で-約束編ー
「珠鬼って言ったわね。
いつまでも、膝を折って
頭をさげたままにしないでちゃんと顔をあげて。
少し話を聞かせてくれる?
中に入ってもいいから」
そう言うと、手に持っていた
突っ張り棒を土壁にもたれさせた。
灯りを手にゆっくりと
部屋に入ってきた珠鬼は、
灯りを安置すると、
再び、私の前で頭を下げた。
なんで、こーなるかな。
「ねぇ、さっきも言ったと思うんだけど。
私、頭下げられるの慣れてないんだわ。
顔、あげてくんない?
まず、貴方は私の事を
咲鬼って呼んだ。
その名前を知ってて、
和鬼のことを知ってるってことは
ここは鬼の世界ってこと?」
問いかけた言葉に対して、
珠鬼は、今も頭を上げずにただ頷く。
「そう。
ここ、鬼の世界なのね」
自分の居場所がわかった。
それは……ある意味、現実世界から離れたことによる
学校生活の不安と共に、
私の知らない和鬼の世界へと関わることが出来たっと言う
嬉しさも重なって、胸中は複雑だった。
「次の質問。
なら私、何でここに来たのかわかる?」
そう切り出した途端、
相手の体が小刻みに震えだす。
えっ?
なんで?
私……なんか、
マズイことでもいったかな?
「咲鬼姫をこの世界に引きずり込んだのは、
俺……いやっ、 あっ、私なんです……」
珠鬼はそれだけ言い切ると、
また黙り込んでしまう。
「あのさぁー。
堅苦しい話し方じゃなくていいから。
俺でもいいから、もっとちゃんと話して」
心の中のイライラゲージが
プチって音を立てて、振り切りそうよ。
「最近、鬼の世界がおかしいんです。
気が付いたら俺ら、
自分でも理解できないような行動に出てて。
それで……。
鏡の向こうの声を聞いたら、
いてもたっても居られなくなって引き寄せたんです。
俺の場合……
それが、咲鬼姫さまでした。
刻印の契約をしようと姫様の肌に触れたとたん、
姫様の血から、和鬼の香りがして気が付いたら、
姫様が…… 王族にしか取り扱えない王剣を手にしてて。
その剣が光った時、
俺は自我を取り戻せました。
姫様は、その後……その場で力尽きたように
倒れてしまって、えっと、ここまで俺が抱き上げて
運んで来たんです。
これはその時に落とした姫様が身につけられていた勾玉」
震える声でそう語った珠鬼は、
片手に勾玉をのせて伸ばしたまま
再び、地面に頭をこすり付ける様にして動かなくなる。