隣人
スーツの男は私の部屋から出てきた九条奏多を確認すると、途端に表情が険しくなり物凄い形相で私を睨んできた。
そしてスーツの男は彼の腕を引っ張り、素早く自分の元に引き寄せる。
「奏多に近づくのは止めてもらえますか」
「…え?」
何を言ってるのこの人。奏多に近づくな?
誰も近づいてなんかいないわよ。
こいつが勝手に転がり込んできて都合のいいように抱かれてるだけ。
「こいつがアイドルだって知ってますよね?余計なスキャンダルでこいつの人生ダメにしたくないんです」
「はいはい。心配しなくても大丈夫ですよ。金輪際、二度と会いませんから!!」
扉をおもいっきり閉めてやった。
なにが余計なスキャンダルよ。こっちが平凡なOLだからって馬鹿にして。何も知らないくせに上から物を言うなっての。
「美月っ、開けろっ!」
ドンドンと扉を叩いて叫ぶ九条奏多。外では彼とスーツの男が言い争う声が聞こえた。だけどもう私には関係ない。
これを機にこんな関係を終わらせるんだ。物件を見つけて一刻も早く彼から離れよう。それが一番だ。
決断した私の行動は早かった。その日の内に新しいアパートの契約を済ませ、引っ越し業者にも電話をして1週間後に引っ越しが決まった。
その日から隣人は部屋に帰って来なくなった。きっとここに帰らないようにお達しが出ているのだろう。
別にそれでいい。もう振り回されるのは沢山だ。
新しい場所で私の新しい生活が始まる。そこからもう1度人生をやり直すのだから。