隣人




今から遡ること7時間前。
私は突然、絶望の淵に落とされた。


同棲相手の太一が部屋に帰って来た早々、別れ話を始めたからだ。



「美月。俺と別れてくれ」

「え…?」

「好きな女が出来た。そして…その女の腹の中には俺の子供がいる」

「なっ、なによそれ!」

「今まで内緒にしてて悪かった」

「ひどい…」



泣き崩れる私に向かって、深々と頭を下げた彼はそのまま部屋を出て行った。


どうしよう。
どうすれば太一は戻ってきてくれる?
そうだ。とにかくもう一度話をしなければ。


無我夢中で私は出て行った太一の後を追った。しかし、マンションの外に既に彼の姿はなく暗闇が広がるだけ。


その暗さが私の心のようで、ただ呆然とその場に座り込んだ。



「おい、大丈夫か?」



私にかけられた声。ふと顔を上げれば、センスの良い服に帽子を目深に被った若い男が立っていた。


大丈夫ですとうつむき加減にボソボソと返事をした私を、その男は呆気ないほどその場に見捨てマンションの中に入って行った。

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