KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
2章 強制シンデレラ(?)化
結局、彼にその意図があったかどうかは別として、人質ならぬ、物質を取られた状態になってしまった私は、びしょ濡れの服で、コートも着ずに、携帯電話も財布も、仕事の資料も放棄して帰る訳には行かず、彼が戻るのをただ待つ事しか出来なかった。
「君、名前は?」
やはり、戻ってきた彼に、半ば強引に車に乗せられ、何処に行くかも知らされぬまま、不安一杯で助手席に座るはめになった私に、彼は運転しながら尋ねてくる。
……ってか、私、一応被害者。貴方、一応加害者なのに、何故こうも偉そうなの?
それに、名前訊くの今更過ぎやしませんか?
「……灰島藍花です。貴方は?」
胸の中は不満いっぱいだったけど、それを無理矢理抑え込み、何とか平静を装って答える。
私の意思に反して、強引に連れ回されている状態だけど、もう車に乗ってしまった以上、暫くはこの人と一緒にいなくてはならないんだし、名前位は知ってないと不便というものだろう。
「あぁ、そういえば俺も自己紹介がまだだったな」
当然だ。
自己紹介はお互いにするものなんだか、私がしてなければ貴方だってしてないに決まってる。
第三者がいれば、片方にだけしていてとかそういうパターンもあるけれど、肝心の3人目だった女性は修羅場を繰り広げた後、自己紹介なんてする余裕もなく、逃げるように立ち去ったのだから。