KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―

そもそも、今日は、朝からついてなかった。


朝食用に作った目玉焼きは、火の加減を間違えて焦がすし、出掛けに飲んでいたミルクティーを溢して、お気に入りのラグに染みも作った。


でも、その時は、「ドジっちゃったなぁ」程度にしか、考えてなかったし、たいして気にも留めてなかった。





……というか、今日は、前々から憧れてたカリスマ美容師に、仕事で会える事になっていたから、浮かれていてちょっと注意力が散漫になっているんだと思ってた。






私は女性向けファッション雑誌の編集に関わる仕事をしている。

そのカリスマ美容師とも、今度、私が担当している雑誌の企画でヘアスタイル特集をやる事になり、その打ち合わせに同行する形で、会う事になっていた。


都内に数店舗サロンを構えているその人は、雑誌にも引っ張りだこだし、店の運営管理や美容師としての仕事もあり、予定を押さえる事はなかなか難しかった。

その為、たまたま偶然空いた時間に無理やり予定を入れてもらったから、こっちが予定を合わせないといけず、休日出勤する事になったけど……それでも、憧れの人に会えると思えば、私にとってそれは苦どころか最高に嬉しいイベントですらあった。




だから、今日の私は、かなりご機嫌。


気分が高揚しており、小さな不運は、全然気にすらならない。

むしろ、この後の嬉しい出来事の為に使った運の代償だと考えると、この程度で嬉しい出来事が来るならかなりお得だ、何だったらもう少し不運が続いてもいいとすら思ってた。



……まぁ、憧れの人に会えると思って、前日から念入りに考えて決めていたコーディネートを完成させるべく、お気に入りのニットワンピにコートを着て、ボーナスが出た時に、自分用ご褒美に買ったネックレスをして、最後の仕上げとばかりに、買って数回しか履いてないをとっておきのパンプスを履いた数歩歩いた途端、ヒールがポッキリと折れた時には、流石にちょっと、「今日は何かもっと大きな良くない事が起こるかも」と一瞬、不安が脳裏を過ぎったけど。
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