KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
「よく見てて」
自分の手元のカードと春斗さんのカードを見比べていると、彼がニッと笑ってエレベーターの方へと振り向く。
私は言われた通り、彼の手元がよく見える位置へと僅かに体を移動させ、様子を見守った。
「これは、カードキーにもなっているんだ」
そういうと、『KINGDOM』と書かれているプレートのすぐ上にある細長い穴に手に持っていたカードを通した。
ピッという小さな電子音と共に、穴の脇にあった小さなランプが緑色に光る。
ウィィィィン……。
エレベーター昇降時特有の機械音が、遠くの方で聞こえる。
凄い。このカードが、このエレベーターを動かす鍵になっているんだ。
今までエレベーターはボタンを押せば勝手にくるのが当たり前と思っていた私には、ちょっとしたカルチャーショック。
「今度から来る時はここに通してエレベーターで上にあがってくれ」
「は、はぁ」
まぁ、来るつもりは0だし、この銀のハートのクイーンのカードも、今日中に、タイミングを見計らって、こっそりと返却するつもりだから、使う事はまずないと思うけどね。
「お先にどうぞ」
暫くして静かにゆっくりと開いたエレベーターの扉を、春斗さんが手で押さえてくれ、私を中へと誘う。