KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
悲しさと、怒りを堪えて、手をギュッと握り締めると、綺麗に整えてある長めの爪が掌に食い込んだ。
彼の作るヘアスタイルが好きで、雑誌に載っている女の子達みたいにいつか私も可愛くしてもらいたいなんて思ってた。
ファッション雑誌の編集なんて仕事をしてるだけあって、お洒落が大好きな私は、女の子の綺麗や可愛いをリードしていくヘアスタイルを生み出し続けている彼を尊敬していた。
いつか一緒に仕事が出来る事があったら、彼がいつもどんな事を考えながら仕事をしているのかとか、色々訊いてみたい事だってあった。
でも、今の目の前の人物に対して、私は嫌悪感しか感じられなかった。
「すみません、お待たせして」
程なくして返ってきた、先輩によって、その『お誘いの時間』は強制的に終了されたけれど、私の胸の中にはドロッとした淀んだ感情がグルグル渦を巻くようにして残った。
その後、淡々と何事もなかったかのように進められていく打ち合わせの内容は、ほとんど、頭に入っては来なかった。
ただただ、言われた事を機械的にメモして、先輩と目の前の元憧れの人の会話に、貼り付けた笑みで相槌を打つだけの時間。
表面上は、真面目に進められていくのに、気付けば、見えない机の下で彼の足が私の足に明らかな意思を持って触れていた。
あまりの不快感に思わず立ち上がりそうになった。
吐き気すら覚えるその時間は、まるで私にとって拷問のようだった。
それでも、何とか意地と根性で、仕事が終えた瞬間、私は挨拶もそこそこに、逃げるようにその場を立ち去っていた。
あんなに会ってみたかった人だったのに、今は1分1秒でも早く、その人から離れたかった。