KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―
苦痛の時間を乗り切った後、鬱々とした気分のまま家に帰るのも嫌で、気分転換に買い物に行った。
給料日前だから、洋服は軽く流し見る程度で、あまり買う気はなかった。
それでも、何着は気になったものを鏡の前で体に当ててみたりしたんだけど……
鏡の前に立つ、自分の気合いの入った服装を見る度に、思い出したくもない相手の顔を思い出してしまい、げんなりとした。
結局、普段だったら楽しいはずの買い物も、あまり楽しめず、ならば、せめて甘い夢にでも浸り、現実逃避したいと思って、立ち寄った本屋で、元々今日買うつもりだった、発売したばかりのお気に入り作家の新刊をゲットした。
それは、砂糖菓子のように甘い恋愛ストーリー。
登場する男性は主人公を恋するお姫様に変えてくれる素敵な人ばかり。
……もちろん、今日会ったあの人のように、最低な言動はしない。
知り合いに、私がその作家の本が好きだと話をすれば、「意外だ」と言われ、本気で驚かれる。
どうやら、私の見た目からのイメージでは、甘い恋愛ストーリーを読んでいそうには、どうしても見えないらしい。
以前、学生の頃に、わりと仲の良かった同じゼミの男の子に、「恋愛ストーリーより、むしろ官能小説とかの方がイメージに合ってる」と冗談まじりに言われた事すらある。
あの時は、真っ赤になって反論したけど、居合わせた友達数人が無言で頷いていたのを見た時は、内心ちょっとショックだった。
「いいのよ、趣味は個人の自由だし。人は見た目のイメージ通りじゃないんだから。……きっと、私の見た目に惑わされず、ありのままの私を好きになってくれる人だって、いつか現れ……るといいな」
本屋でかった「シンデレラストーリー」という如何にもな題名の小説が入った紙袋を胸に抱き締め、深い溜息を吐いた。
わかってる。そろそろ現実を受け止めないといけない年だって。
「シンデレラストーリー」なんて起こらないんだから、そこそこ自分を相手に合わせる事も大切だし、王子の迎えを待つんじゃなくて、自分から王子を……いや、むしろ平民位のレベルから、ほどほどの相手を探しにいかないといけないんだって。
……でも、今日くらいはせめて、傷付いた気持ちを浮上させる為に、甘い夢という名の薬に酔いしれさせて欲しい。