君の命の果てるまで

嫌味な奴

屋上からエレベーターで降りたら、間違えて1階に降りてしまった。

仕方がないので、ついでに飲み物でも買おうと、私は自動販売機に向かった。


何買おうかな……。


ずっと何も口にしていなかった私にしては、大いなる進歩だ。


結局、無難な無糖の紅茶を選んで、私はお金を入れた。





そして、自動販売機に背を向けた時。





「あの、さ。」


ふいに、背中から話しかけられた。


「何か?」


「君は、馬鹿なのか?」


「……えっ?」


余りに急にけんかを売られたものだから、怒りすら沸いてこない。


「まだ気付かないのか。君はここへ、何をしにきたんだ。」


「飲み物を買いに来ただけ、あっ!」


空っぽの両手を、思わず見つめてしまう。

な、なぜ……。

お金入れて、ボタンを押して、そのまま帰ろうとした?私……。



彼は、私に紅茶のペットボトルを投げて寄越した。

ペットボトルは、放物線を描いて、綺麗に私の手の中に収まる。


「あ、りがとう。」


こんなに不本意な相手に、感謝しなくちゃならないなんて。


「きっと天性のドジだな。せいぜい死なない程度にしろよ。」


「はっ?」


反論しようとしたときには、彼はもう私に背を向けていた。

軽く手を挙げて、そのまま振り返りもしない。


初対面なのに、いきなりドジだのバカだのって……。

やってることは親切なのに、なぜか素直に感謝できない。


見たところ、同年代だけれど、物言いがやけに大人びていて。

そして、悔しいけどかっこいい。



去って行くほっそりとした背中は、少しだけ寂しげだった。

私や朝田先生と同じような、影を持っているような気がした―――
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