君の命の果てるまで
きっかけは、些細なことだった。



「ねえ、お母さん。」

「なに?」

「林間学校で山登りするんだけど、行ってもいいよね?」

「山登り?」


母は心配そうに眉をひそめた。


「山登りなんて、行かない方がいいわよ。」

「え、どうして?」

「だって……、もし何かあったら、」

「大丈夫だよ。」

「そんなこと、言いきれないでしょ。」


何故だか私は、意地になっていた。

今思えば、母の言っていることは正しかったのに。


行くな、と言われると余計行きたくなる私。


「行くからね、私。」

「やめなさい!」


その時、いつも怒らない母が厳しい口調で言った。


「甘えるのもいい加減にしなさい。何かあって、人に迷惑を掛けてからじゃ遅いの。自分の体くらい、自分で責任を持ちなさい。」


その言い方に、心の底からふつふつと怒りが沸いてきて。


「……ねえ、お母さん。どうして私を産んだの?どうして、」


母ははっとしたような顔で固まった。


「苦しんでばっかりで、したいこともできなくて。こんな私、生まれてこなければよかったのに!」


母の傷付いた表情が、私をさらに苦しめた。




そして、そのまま家を出た私。

朝から母とこんな会話をして、やさぐれていた。

だから、あんなことをしてしまったんだ。


普段の私は、決してしないようなことを。
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