君の命の果てるまで
「朝田先生。」

「ん?」

「あの……、母は、何か言っていましたか?来られないわけとか……。」


そう言った瞬間に、朝田は悲しそうな顔をした。

きゅっと顰められた眉。

軽く噛んだ薄い唇。


どうして?

どうしてそんな顔するの?

先生―――


「いつまでも黙っているわけにはいかないよね。」

「え?」

「ただでさえ弱っている君に、精神的負担をかけたくなくて、黙っていたんだけど。」


嫌な予感がする。

朝田の、苦しそうな声に、耳をふさぎたくなる。


「君のお母さんは、もうここに来ることはできないんだ。」


朝田の声が、理解できないままに私の頭の中に響き渡る。


「もう来られないんだよ。」

「どうして、」

「事故だよ。君が眠っている間。ここへ来る途中の事故だった。」


言葉を失った。

目の前が真っ白になって、体の力が抜けてしまって。


――取り返しのつかないことをしたんだ、私。


冷静でない頭に、ただそれだけが浮かんでいた。



「今まで言わなかった僕を許して、奈緒さん。」



朝田はそう言うと、私を残して病室を出て行った。

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